学生によるインタビュー

社会で活躍する卒業生

03五藤 愛 さん

金属材料研究所(金研)は、材料科学の基礎から応用にわたる教育活動を展開し、これまで多くの優秀な人材を輩出してきました。今回は金研のOG(2018年修士卒、古原研究室)であり、現在日本製鉄株式会社でご活躍されている五藤愛さんに古原研究室の佐藤と吉田がお話を伺いました。

 
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金研から社会で活躍する「金属研究者」へ

Chapter 1.
スケールの大きな「鉄」を扱う仕事、
材料出身だからこそのアドバンテージ
現在の仕事内容を教えてください

入社当初から鉄鋼の棒線材料開発を行っています。昨年までは鉄鋼研究所(以下、中央研究所)で基礎研究をしていて、今は九州製鉄所にある技術研究部で基礎研究を実機プロセスに落とし込むための応用研究や、実機での製品開発や顧客対応をしています。具体的には自動車の駆動部品に使われるギア用鋼の成分設計や組織制御、製品を実機プロセスでどう作るかという落とし込み、それら開発した製品の顧客提案をしています。

今の仕事のやりがいや面白いところを教えてください

自分が中央研究所で研究していたものを実製品に落とし込む仕事なので、自身が研究開発した鋼材をスケールの大きい実機で試作・製造する所にやりがいがあります。関係部門も品質管理や製造、工場や設備部など本当に多岐に渡って、いろんな人と仕事をするので面白いです

―仕事をするうえで他の部署とのやり取りは、やはり大切になってきますか?

他の人もたくさん仕事を抱えている中で、私の仕事をやってもらうためには、「みんなが気持ちよく一つの目標に向かって仕事できるように」といったマネジメント的な取り組みは大事だと思います。

学校での研究と会社での研究の違いは何でしょうか?

会社の実験の大部分はオペレーターの人がしてくれます。私は研究計画などを立て、実験依頼書を書き指示を出します。自分で実験をしない分、複数の研究テーマを同時並行で進めたり、特許や論文を書いて顧客提案に時間を使っています。 また、会社は一つの特性を追い求めるような研究は少なく、強度特性や製造性、コストなど全てを満たす材料開発をしないといけません。そこにはいろんな解決方法があるので、多くの関係部門を巻き込みながら協力して仕事を進めることが多いです。

―自分で実験をすることは全くなくなるのでしょうか?

自分で手を動かすことはないですが、たとえば組織観察(SEM,EBSD,TEMなど)は立会することが多いです。撮影箇所や撮影倍率などは実験依頼書である程度前もって指示をします。複雑な組織の場合、一緒に立会して「この組織をもっとよく見たいので、このように撮ってほしい」など細かく指示します。やはり自分自身が学生時代に手を動かしていたからこそ具体的な指示ができるので、そこは材料工学出身としてのアドバンテージがあると思います。

Chapter 2.
興味を持って進んだ研究が今でも役立っている
学生時代の研究内容を教えてください。

古原研究室のときは鉄鋼材料のオーステナイト中のボロンの粒界偏析の研究をしていました。ボロンは実際の材料でも使いますし、偏析挙動※1はとても重要なので本当に今の仕事にも活きています。その頃の研究を活かした開発をしたり、論文を出したりと、今も継続して取り組んでいる内容です。 学部時代のときは、フェライト系ステンレス鋼のラーベス相のクリープ特性について研究していました。試料にいろいろな熱処理を施して、析出物のTEM観察やクリープ試験を行っていました。析出物制御は鉄鋼の中で非常に重要で、TEM観察技術も現在の研究内容に活きています。

※1:結晶粒界などに材料の成分元素が濃縮すること。材料の脆化をもたらす場合があるので、偏析挙動の理解は重要である。

大学院進学の際に古原研究室を選んだきっかけはなんですか?

学部生の時に受けた材料組織制御や鉄鋼精錬の授業、工場見学などが面白く鉄鋼業界に興味があり、下工程の研究なら材料組織制御の古原研を、上工程なら別の研究室を考えていました。どちらかというと組織制御の授業や、学部生の時に取り組んだステンレスの析出物の研究が面白いと思っていたので、大学院では材料組織制御をもっと学びたいと思い古原研を選びました。仲のいい先輩から研究室の雰囲気などを聞いて選んだというのもあります。

大学で得た知識や経験は、どのように役立っていますか?
 

学生時代の様子

大学で学んだ知識がある程度あって、何が重要かなどの考え方を知っていることが大きく役立っていると思います。誰々がやっていたからその時の資料を見てみようとか、授業の内容などを見返すと、ズバリ書いてあったり、ヒントが書いてあったりするので、最初のきっかけ、窓口を持っていることが強みになっています。特に、古原教授の授業やゼミ資料は今でも参考にしています。100%そのまま参考にするというよりも、考え方や最初の導入を掴むためにすごく役立っています。当時の教科書やノートを見返すことも多いので多岐に渡って残しておくといいかと思います。

Chapter 3.
仕事だけではない楽しさ、これからの将来について
日々の生活の中で楽しさを感じる瞬間はどんなときですか?

社会人になって始めた登山をしているときです。最近は同僚も誘って、みんなで頑張って登るのでとても楽しいです。北九州には片道1時間ほどの山がたくさんあるので、そういうところに登って体を動かすといいリフレッシュになっています。良い空気を吸ってストレス発散しています。

今後はどのように働いていきたいですか?

キャリア形成については、よく上司と相談しています。最初の5年位は中央研究所で基礎研究を学び、現在のフェーズは技術研究所での応用研究や顧客対応です。実機試作や顧客のニーズ把握を行い、基礎研究と製造をつなげる役割を担う部署です。会社の利益に直結する操業に深く関わるので大変面白く働いていますが、キャリア形成と同時にライフワークバランスもとても重要だと思っています。現在は福岡に単身赴任中で家族は千葉にいるので、ある程度こちらで経験を積んだ後は中央研究所などに戻って自分が見つけた製造課題や新規ニーズに対する材料提案をしたいと思っています。今後のキャリアプランについては、社内でも積極的に面談の機会が設けられているので、大変相談しやすい環境です。

これから「材料」を学ぼうとする学生に向けてメッセージをお願いします!

材料はものづくりの出発点です。革新的な製品を創る上での重要な要素なので、やりがいのある分野だと思います。私の場合は金属でしたが、材料にはセラミックやいろんな素材があり、そのまま素材メーカーに就職する人もいれば、研究生活や学生生活を通して違う職種を選ぶ人もいます。すごく面白い世界なので、是非勉強して欲しいなと思います。

ありがとうございました。

YOSHIDA

SATO

2024年1月インタビュー 古原研究室 (吉田、佐藤)

Profile
Ai GOTOH

日本製鉄株式会社 技術開発本部 九州技術研究部 製鋼・鋼材研究室 棒線研究課 九州製鉄所 品質管理部 棒線管理第一室 兼務

東北大学大学院工学研究科金属フロンティア工学専攻博士前期課程修了(2018年) 金属材料研究所 金属組織制御学研究部門(古原研究室)

※所属はインタビュー当時のものです。

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